こんにちは、エージェントセブン編集部です。
今回の特集企画では、2023年9月1日にリブランディングをされた「PRONI株式会社」を紹介します。
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)で最年少役員としてご活躍されていた栗山規夫氏(現:代表取締役 Founder)が2012年に創業した会社です。
「受発注を変革するインフラを創る」をビジョンに掲げ、BtoB受発注プラットフォーム「 PRONIアイミツ」を運営しています。
本インタビューでは、この度のリブランディングの背景と、さらにはこの取り組みの中でどのような議論があり、どのような意思決定がなされたのかを栗山氏に赤裸々に語っていただきました。
PRONI社の仕事の流儀を紐解くことで、同社の競争力の源泉に迫りたいと思います。
目次
会社のリブランディング。プロジェクト発足までの過程。
さっそくですが、リブランディングの構想はいつ頃から考えていたのでしょうか。
ユニラボという社名やアイミツというサービス名に認知度・ブランド力を語るうえでの課題がある 、というのはずっと感じておりました。それを変更してもいいのかなと思うようになったのは3年ぐらい前だと思います。
ただ、リブランディングと一口に言っても、プロとして伴走してくれるコンサルティングパートナーが必要だし、お金も一定かかるものだとは思っていました。ですので、思いついた時にすぐにリブランディングに踏み切れる、というわけではなかったですね。
その後、note(※)の記事にある10年目の振り返りのなかでリブランディング実施の意思決定をされたのですね。
(※)2022年9月30日リリースのnote記事「ユニラボの軌跡 -創業10年に寄せて-」
リブランディングは約1年越しのプロジェクトになったかと思いますが、もともとこれぐらいのロングタームで考えていらっしゃったのでしょうか。
当初の想定よりもローンチが2か月のびてしまいましたが、クリエイティブを突き詰めていく時間などを考慮すると、想定の範囲内だったかなと思います。
社名やサービス名に感じていた課題というのは、具体的にどのようなものだったのでしょうか。
課題としては3つあります。
まず、ユニラボという社名とアイミツというサービスの名前が一致しないこと。
次にユニラボというもともとの社名の意味(※)が今は薄れてきているということ。
最後に、アイミツ(相見積もり=値下げ)というサービス名に負のイメージがあること。この3点です。
(※)ユニラボという社名は「Unique Labo」の略語。手がける事業であり、組織形態であり、チームそのものがユニークでありたい、と願ったのがもともとの社名の由来です。
その課題に対し、栗山様が今回のリブランディングで実現されたかったこととは、何だったのでしょうか。
リブランディングでは、社名変更、ロゴの刷新、ブランドムービー、VISIONING BOOK(※記事文末に掲載)の制作などを主に行いました。
10年後にブランドといえる企業になるためのスタートラインに立つこと”が、リブランディングを通じて一番やりたかったことになります。
ブランドとは抽象的で形がないものなので、言語化作業は非常に難しいですよね。その中でも御社は、例えば行動指針(Value)である「まっすぐ」を採用コンテンツに落とし込むなど、節目節目で言語化の先陣を切っているイメージがあります。
2020年の行動指針(Value)の改定については、今までの組織マネジメントのやり方に課題を感じており、6つあったものをシンプルに絶対に守るべきもの1つに絞ろうということで「まっすぐ」に統一しました。
「受発注を変革するインフラをつくる」というビジョンについても、創業時から似たようなことは言っていたのですが、再度明文化し、そのビジョンをもとに意思決定を統一させていくような、いわゆるビジョン経営をしていくための誓いを立てたようなイメージですね。
これらはすべて、必要に駆られてそうしてきた部分も大きいので、現時点の社内ではまだまだ言語化ができていないという課題は残っていると思います。
何度も迫られる難題。PRONIならではの意思決定とは。
今回、特に目を引いたのが、コーポレートカラーが青系色から赤色に変わったところです。がらっとコーポレートカラーを変えられた理由をお伺いしてもよろしいでしょうか。
色はVI(ビジュアルアイデンティティ)の次に来るものなので、アイデンティティを視覚化するロゴマークが「ペンギン」や「日の出」になった瞬間、カラーは自ずと赤になりました。
オレンジでもつくってみたのですが、それだとやはり日の出よりも夕日のイメージが強く出てしまって。ですので、最初から色ありきでコーポレートカラーのオーダーを出したわけではないです。
あくまで、VIに先行して決めた「プロに出会う。プロになる。」というタグラインのストーリーをどうビジュアルに落とすかというプロセスを踏んでいった結果として、コーポレートカラーが赤になった、という形ですね。
あくまでもタグラインが先で、それをビジュアルに落としてカラーが決まっていくというプロセスですね。とはいえ、従来と同じネイビー系を押すような意見もあったのでしょうか。
VIについては、取締役4名・デザイン室長・デザイナー2名・CEO室のメンバー1名の計8名が関わっていました。色もそうですが、ペンギンのモチーフに関してもそれなりに意見が飛び交っていたと思います。
王道感を感じて貰うために、本当に動物が良いのかといった意見や、ほかの色や形がいいといった意見を交換しながらビジュアルへの落とし込みを進めていきましたね。
単純に好き嫌いの次元の話も中にはありました。
社内で意見がぶつかったときは、やはりVIに立ち返るのでしょうか。
そうですね。「プロに出会う。プロになる。」の主体は、発注者(カスタマー)であり、発注者が主体のブランドという設定です。ロゴマークでいうと、ペンギンのモチーフで黒色を使っているので、「PRONI」のローマ字自体を黒にするという案は最後まで残っていました。
ただ、ロゴマークの中に色をがちゃがちゃと使うのは基本的には良いことではなくて、使っても2色が望ましいという中で、すでに(ペンギンに)黒を使っていたので。
ロゴに込めた意味、そのロジックを考えたときに この中で一番目立たせたいのは、実は朝日でもなく、「PRONI」のローマ字でもなく、ペンギンなんですよね。
「本来は飛ばない鳥が飛ぼうとしている(=不可能を可能にする)」ことを考えたときには、「ペンギンだけが黒」の方が目立つ。勿論これは理屈で感じ方はひとそれぞれでしょうが、弊社のなかではそういった意見を交わしながら色の意思決定を進めていきました。
PRONI モーションロゴ。
日の出に向かって、モチーフとなるペンギンが飛翔していく。
「プロに向かう様子」を表現。
ストーリーを感覚ではなくロジックで落とし込んでいくのですね。ちなみに意思決定にあたっては、事前にワークショップなどを開いて進められたのでしょうか。
PRONIという社名候補を出す前には、ニューピース社から各取締役へのヒアリングの機会を設けたり、ワークショップをやったりしました。様々な案が出るなかで、PRONIという社名は4人の取締役の全会一致で決まりました。
ロゴマークについては、多数決で決めるようなものでもないと思っていたので、わたしと、ニューピース社のトップである高木様と、外部デザイナーの3人で主にディスカッションをして、最終決定はわたしの方で行いました。
それだけ正解が無く重要な意思決定ということだったのですね。
今回、ニューピース様とのやり取りの中で、山場や逆境を感じた場面はございましたか?
ニューピース様とは約1年一緒に仕事をしてきましたが、プロジェクトが進むにつれて信頼関係が強くなっていきました。一方で、すべてをパートナーに任せきりでは良いものは出来ないと、自分なりに気を引き締めた時期もありました。
その他には、わたしやデザイン室長、わたしのアシスタントの主に3名がコントローラーとなって社内のいろんな事を調整しなければいけないので、そこの役割分担を軌道修正しながら進めていくことが必要でしたね。
明確な納期は元々定めていなかったのですが、今の弊社は事業を伸ばさなければいけないフェーズなのに、事業には間接的かつ長期的にしか貢献しないリブランディングに多くの(事業側の)リソースを割いてしまっていたので、実際にはやっぱり短期間で結論を出す必要性はありましたね。
事業もリブランディングもトレードオフではなく両立させるということですね。そのうえでQCDもコントロールされていたことを聞くと、極めて難しいプロジェクトだったことが想像できます。
ニューピース様側からは、プロジェクト終了後の振り返りはありましたでしょうか。
先方担当者からは、今までで一番思い入れがあるプロジェクトだったと、弊社の全社員の前でおっしゃってくださいました。とにかく、関わってくれたクリエイターさんたちがみな、「プロに出会う。プロになる。」というコンセプトにすごく共感をしてくださったんですね。
新しいブランドコンセプトを好意的に受け止めてくださったのはよかったと思います。
まさに、“PRONIさんが目指す理想的なパートナーとの関係性”がつくれたプロジェクトだったのでしょうね。
ちなみに他の役員やプロジェクトメンバーからの振り返りはいかがでしたか。
わたしも含めて関係者全員が、このプロジェクトを通じて成長できたと思います。
プロジェクトメンバーの中で唯一わたしは、ディー・エヌ・エー(DeNA)のときにもリブランディングを経験しています。しかしそれはかなり昔の話ですし、今回のように自分の会社をリブランディングするとなると、全貌をつかむのは難しい。
ニューピース様からの宿題をこなし、考え、自分の思いをまとめながらプロセスを進めていく過程で、やっぱり成長はしましたね。
このプロセスが、「経営者としてブランドについて考える」うえでのいいトレーニングになったと思います。
またデザイン室長も、任天堂からリクルートへとキャリアを積んだのちに弊社に来てくれた人なのですが、有名な会社で様々なデザインを手掛けてきた人ではあっても、今度は自分が責任者としてそれを進めなければいけないので。そういった経験を通じ、また一段階レベルアップしたのではないかと思います。
とにかく、みんなで知恵を出し合いながら進めてきました。例えばブランドムービーのシナリオは複数の案があって、意見が割れたのですが、とにかくそれぞれがどう思うかをたくさん議論してきたので、だからこそ最終的なアウトプットにも納得ができたのかなと思います。
PRONI株式会社ブランドムービー「プロってなんだろう」
PRONIの皆さんは、今回のブランディングプロジェクトのような“正解のない難題“にぶつかったときに、何に立ち返り、どのようにご決断をされていらっしゃるのでしょうか。
例えばどちらのデザインがいいかという判断においては、テストしてみてコンバージョンがいい方を選ぶ、それがIT業界の常識だったりするのですが、今回は正解を迷うというよりも、正解そのものがわからないプロジェクトでした。
リブランディングの結果、A案とB案でどっちの社名が良かったかを判断するのは、(社名はひとつしか選べないので)不可能じゃないですか。
こういった正解がないものというのは 、考えに考えたり、議論をしつくしたりなどして、穴をなくして決めていくことが大事かと思います。選んだものを正解にしていくというスタンスが重要です。
お話をお伺いしていると、対話や議論をしっかりしたうえで決めるというのはPRONI流、PRONIスタイルなのかなと思います。
それはそうですね。普段から、トップダウンで物事を決めるということはほとんどありません。今回のプロジェクトにおいて、わたしは経営者であると同時にプロジェクトリーダーでもあるので、わたしの一存で決めることもできましたが、やっぱり今回も、議論や対話はしっかりと挟みましたね。
リブランディングをオープンにした際の、社員の方々の意見や反応はいかがでしたでしょうか。
まず、今年(2023年)の1月に社名変更をオープンにした時の反応はすごくよかったですね。うちの会社が目指すべき方向性というのを、考えたプロセスやストーリーを使いながら説明をしました。
例えば弊社のビジネスでは発注者と受注者という2人のお客様がいるのですが、そのどちらに重きをおいていくのか。あるいは、空いた時間にただ楽をするのではなくて、空いた時間でもっと会社を良くしていくために積極的な投資をしたりするといったような、こういった「AとBのどっちになりたいか」といった二者択一の選択肢を、いくつかの視点で社員に伝えました。敢えて対案を出すことで分かり易く意思決定の理由を説明していきました。
そしてその結果出てきた社名がPRONIだという説明をさせていただきました。
社員の皆様にとっても、自分たちの中での(社名変更をした理由の)整理材料になりそうですね。
そうですね。そもそも「ブランドとは何か」みたいなところから入っていったようなところはあったと思います。
希望者を対象に、会社をリブランディングすることに対する対話セッションもやりました。1時間ずつ、4人〜5人×計20グループぐらいやったので、70人ぐらい出てくれたのかなと思います。
リブランディングへの方針やなぜそれをするのかといった、メンバーそれぞれが気になっていることをセッションで聞いていって。それを3、4ヶ月やって、7月21日に(ロゴの刷新やブランドムービーなどを)映画館で発表したというような流れですね。
2023年7月21日に開催された社内イベント「PRONIセレモニー」の様子
そのセッションの中での、何か印象的なご意見などはございましたでしょうか。
みんなの好きなブランドは何?という話をした時に、ある人はディズニーが好きと答えたんです。そこで、なんでディズニーが好きなのって聞くと、ディズニーランドの楽しさが好きとか、ミッキーが好きとかそういうことじゃなくて、ウォルト・ディズニーの人柄の話をするんですよ。
ほかにも、スニーカーの話題でオニツカタイガーが好きとかナイキが好きとかいろいろな意見が出たのですが、ディズニーの創業者について語るのと同じような感覚でそれらのブランドのことを自分事として話していましたね。
ブランドというのは、機能的便益ではなく、ある種の情緒的なものであると捉えています。ブランドの世界ではストーリーとかナラティブ(物語)という言い方をするのですが、つまるところ“ディズニーランド”が好きとか、“オニツカタイガーのスニーカー”が好きとか、そういうことではなくて、そのブランドが語るストーリーが好き、という感覚をみんなもやっぱり持っていたんですよね。それが、すごくセッションをしてよかったなという例ですね。
僕らには、そういったブランドストーリーがありつつも、今まで形式化していなかったので。社名が「PRONI」になった後はやっぱり、「プロに出会う。プロになる。」というストーリーを通じて、社員ひとりひとりがそれを体現していくことに繋げたいと思い、このようなセッションをやりました。
リブランディングを通じて、今までにはなかったブランドストーリーをつくっていったということですね。
自らもプロになる。リブランディングを通して得たもの。
栗山様自身の中で、このプロジェクトを通じて変化や成長を感じられたことがあれば、お伺いできますでしょうか。
ピーター・ドラッカーの問いでも有名なように、経営者の大事な仕事のひとつ「我々は何者なのか」を問い続けること、やはりこれがすごく重要なことだと感じています。
この問いはわたしの中ですごく大事なものとして今後も生き続けるでしょうし、リブランディングはそのことを改めて学ぶきっかけになったと思います。
シンプルな問いですが決して簡単ではないですよね。
社員の皆さんも同じように、その問いについて考えられていたのでしょうか。
会社全体の経営視点というよりも、サービスの視点で「我々は何者か」ということを考える機会は増えるかもしれませんね。
例えば、ブランドムービーの中にPRONIのコンシェルジュが少しだけ出てくるのですが、これを見て当人達はとても喜んでくれました。そしてムービーと同じように、リアルの世界でどのようにして、発注者に最適なパートナーを紹介していくべきなのかを考えるきっかけになったかなと思います。
あるいは、発注者には必ず“ボス”となる人物、例えば中小企業だとそれが社長になるのですが、社員がいて、社長がいて、そういう一つ一つの細かいところを描写したシーンに対して、我々は何者で、どうあるべきかということを社員には考えていって欲しいなと思っています。
今回のプロジェクトを経て社員の皆さんも大きく成長されたことが想像できます。
第三創業期のはじまり。創業者として願うPRONIの未来。
現時点でリブランディングをローンチして1か月半ほど経過しております。リブランディング後の状態は期待通りなのか、想定と少し違うところがあるのか、いかがでしょうか。
元々リブランディングにはローンチしてすぐの業績貢献は期待しておらず、これから積み上げていくもの、という前提で進めています。ですので例えばロゴを変えていきなり何かが起こる、といったようなことはそもそも期待していません。
ただ、採用目線でいくと、新入社員向けの「ビジョン研修」に、リブランディングの内容を取り入れて、PRONIとは、我々は何者なのか、といった話をそこで多くするようにはなりました。
新入社員側にも、その話の内容がすっきりと入っている印象はあります。
いままではユニラボという社名がアイミツのブランドストーリーに繋がっていなかったためあえて社名の話は割愛していて、事業戦略とかHowの話が多かったんです。
対して、リブランディング後のビジョン研修では、Whyの話が多くなりました。なぜそれをやるのか、社会にどう貢献していきたいか、といったパーパスの要素を多くさせてもらっています。
これから弊社に入社される方にとっては、リブランディングの文脈もセットにして話すことで、PRONIという会社が一体何者で、何を目指し、なぜそれをやるのか、の理解がされやすくなった気がしますね。
まさに栗山さん自身が、リブランディングされたことによる手応えを感じていらっしゃるのですね。
今後、PRONIという会社をどういう存在にしていきたいと考えていらっしゃいますか。
やはり最上段にあるのは、ビジョンにも掲げている“受発注を変革するインフラを創る”ということです。
そしてこのインフラを作るために、”まっすぐ”というバリューなり、ミッションが必要になります。
ただ、今までなかったリブランディングの文脈で考えたときには、コーポレート・タグラインである「プロに出会う。プロになる。」というのは“プロ使いのプロ=発注のプロ”みたいなイメージと、“プロに出会うプロ=コンシェルジュ“のイメージとの両方を指しているんですよね。いろんな意味合いがここには含まれているので、そのひとつひとつの意味合いを、PRONIのメンバーにはこれから未来に向かって具現化していってほしいです。
ある発注者がプロに出会って、発注者自身もレベルアップして、それによって会社の事業が成功して…といったようなパターンがたくさんあるので、そういった機会創出をより多く、より早く実現させていくために、社員1人1人が考えて行動していける会社になるといいなと思っています。
次の10年、ますます楽しみですね。
本日は貴重なお話を色々とお聞かせいただき、ありがとうございました。
(※)PRONI VISIONING BOOK